007v-labo

女王陛下の007
1969年
(初見 1978年 名画座にて)
実際に観るまでは、とにかく謎の多かった作品です。最初に007映画を見たのが1975年の春(黄金銃を持
つ男)で、その後TV放送や名画座を歩き回ったりして、過去の作品を「補完」していったわけですが、この
「女王陛下の007」だけはどの名画座でも中々上映されませんでした。考えられる理由のひとつが、007
のリバイバル上映が1976年の「007は二度死ぬ」で止まってしまったことでしょう。「女王陛下」も、その後
のユナイト映画のリバイバルのラインナップには載っていたのですが、実現には至らなかったようです。ロジ
ャー・ムーアから入って、ショーン・コネリーのボンドをいくつか見た自分にとって、この作品の主演の「ジョー
ジ・レイゼンビー」という俳優は謎だらけでした。「ひょっとして世紀の大失敗作であるから、上映できないの
ではないか?」なんて疑念を持ちながら、古本屋で買った当時の映画雑誌の記事を見たり、サウンドトラック
LPを聞きながら場面を想像する悶々とした日々を過ごしました。ようやく隣県の、しかも電車でかなり時間
がかかる名画座で上映されると知り、血相変えて行った記憶があります。さて、鑑賞後の感想はというと、
「大傑作」でした。観ることが出来なかった間に原作小説を読み返したことも良かったのかもしれませんが、
とにかく小説の持つイメージと映画の画面がたいへんマッチしていたと思います。この作品を観て、ボンド映
画というのは主演俳優だけではなく、共演者、スタッフが支えている力がかなり大きな作品だと痛感しまし
た。たった一作で降りてしまったジョージ・レイゼンビーは気の毒だったと思いますが、彼によって社会の00
7映画への認識がある意味大きく変えられたといっても過言では無いでしょう。

さて、この作品は映像商品化においても「不人気作」だとか、「全長版が存在しない」等々の理由や憶測で
発売が後回しにされたり、発売されても部分的に映像の欠落があったりしたりと、ソフトではいくつかの問題
点があったのが残念です。しかしながら、この作品はビデオやテレビ放送等、家庭で見る機会が増えた結
果、80年代以降は徐々に評価が高まってきて、今では「最高傑作」に推すファンもたいへん多いようです。

北米盤レーザーディスク

CBS/FOX VIDEO
発売1982年頃
品番 4604-80
シングルジャケット
2枚組 CLV3面(142分)
実測時間合計(139分54秒)
テレビサイズ
アナログ音声・モノラル
最初に発売されたLDソフト。欠落シーン(以下別項参照)はあるものの、画質も良好でトリミングの仕方も適
切です。ジャケットの表側にジェームズ・ボンドが全く描かれていないことが、何とも奇異に見えます。



MGM/UA HOME VIDEO
発売1990年頃
品番 ML101788
ダブルジャケット
2枚組 CLV3面(135分)
実測時間合計(141分34秒)
テレビサイズ予告編付き(2分12秒)
シネマスコープサイズ
デジタル音声・モノラル
39.98$
待望のノートリミング盤。欠落シーンも無く、国内盤の発売は3年も後だったので十分楽しむことができまし
た。オリジナルのイラストジャケットも味わいがあります。


国内盤レーザーディスク

発売元 ワーナーパイオニア株式会社(初発売盤)
発売1986年6月25日(初発売盤)
品番 10JL-99211(初発売盤)
9800円(初発売盤)
解説書 ジャケット裏英文の翻訳(初発売盤)

ワーナーブラザース映画会社(再発売盤)
発売1988年9月25日(再発売盤)
品番 NJEL-99211(再発売盤)
解説書 岡本紋弥(再発売盤)
6570円(再発売盤・消費税別)

ダブルジャケット
2枚組 CLV3面(144分)
実測時間合計(139分42秒)
テレビサイズ(巻末に「愛はすべてを越えて」収録)
アナログ音声・モノラル
国内初のLDは発売がシリーズ最後(初発売時)にされた上に他のLDソフトに比べて欠落シーンが多く、画
質、音質、トリミングの仕方等々、最悪の出来です。エンディング後に「愛はすべてを越えて」が入っている
のは国内盤のみ。なお、TBSで深夜字幕版が放送された際には、このエンディングの「愛はすべてを越え
て」の背景にボンドとトレーシーのデートシーンを編集してスローモーションにした映像が流れました。



販売元 パイオニアLDC株式会社
1993年2月25日発売
品番 NJEL-52731(レンタル版 RWL-52731)
ダブルジャケット
2枚組 CLV3面(144分)
実測時間合計(141分40秒)
シネスコサイズ予告編付き(2分18秒)
シネスコサイズ(巻末に「愛はすべてを越えて」収録)
デジタル音声・モノラル
5700円(消費税別)
ようやく発売されたノートリミング版は、北米盤と同程度の内容ですが、違う点は予告編がシネスコサイズで
最後のユナイト映画のマークまで入っています。また、トリミング版のときと同じようにエンディング後には
「愛はすべてを越えて」が入っています。メーカ側のこだわりなのでしょうか?

※検証 その1 欠落シーンについて
●60年代の007作品は、映像ソフトによって若干の欠落シーンがある場合があります。
とりわけ「女王陛下の007」については最もそれが顕著にありますので、以下できる限りの検証を行ってみ
ました。

@冒頭ガンバレルシーン後の"UNIVERSAL EXPORTS"の看板が映るシーンがカットされている(約6
秒)。
国内盤TVサイズ

Aピズ・グロリアでボンドと女性入所者たちがカーリングに興じているとき、ボンドの"Perhaps you would
like to teach me"というセリフのあと、現地の情報員キャンベラがロッククライミングをしているシーンに切
り替わりますが、この間に"ゴー"という音をたてて移動するロープウェーの影が山腹に写っているシーンが
カットされている(約3秒)
国内盤TVサイズ
北米盤TVサイズでは、ロープウェーの影は映るが"ゴー"という音は入っていない。
2000年に発売された「特別編DVD」では、ロープウェーの影が無いにもかかわらず、この"ゴー"音がロック
クライミングのシーンにかぶっています。

Bストックカーレースに乱入するシーンで、ゼッケン6番の車が横転するシーンの後、編集が異なる。
(1)約9秒映像がカットされていて、トレーシーの"James! how do we get out?"が敵の銃撃の前に入
る。
また、イルマ・ブントの"Keep straight!"のセリフが
全く入っていない→国内盤TVサイズ
straightのaightだけ残っている→北米盤TVサイズ
入っているが、本来の位置では無い→2000年に発売された「特別編DVD」
(2)映像のカットは無いが、トレーシーの"James! how do we get out?"が敵の銃撃の後に入る。
国内盤ワイド、北米盤ワイド
(3)トレーシーの"James! how do we get out?"がゼッケン6番の車が横転するシーンの後、ボンドが振
り返ったあたりに入る。
2006年に発売された「アルティメットDVD」

Cストックカーレースを抜け出した直後のトレーシーのセリフ"We didn't even stop to the prize"のあと
のボンドのセリフ"I told you that crowd would discourage them"がカットされている(約3秒)。
国内盤TVサイズ
北米盤TVサイズ
2000年に発売された「特別編DVD」

Dボンドたちがピズグロリアを急襲する直前のトレーシーとブロフェルドの会話で、ブロフェルドの"Your
own father's proffession is not entirely within th law"のあとのセリフ"His brotherhood also
have exotic ways to keep it a closed shop"がカットされている(約5秒)
国内盤TVサイズ
北米盤TVサイズ
2000年に発売された「特別編DVD」


●2006年11月に「アルティメットDVD」が発売されましたが、これを「完全版」と考えた場合、「ストックカーレ
ース」のセリフ位置まで同じものは全く無いので、20世紀に発売された映像ソフトは全て不完全版というこ
とになります・・・

※検証 その2 ジョージ・レイゼンビーのセリフについて
●一般的には「ジョージ・レイゼンビーは故郷のオーストラリア訛りが強かったので、セリフの大半は別人に
よって吹き替えられた」というのが通説でしたが、後年その吹き替えを行ったのはヒラリー・ブレイ卿を演じた
ジョージ・ベイカー氏であり、ボンドがヒラリー・ブレイ卿に化けていたシーンは全てベイカー氏によるものとい
うことが明らかになりました。作品を見てみると、ボンドが英国紋章院に行き、ヒラリー・ブレイ卿と打ち合わ
せをしているとき、ボンドのセリフ“Tractfully adjusted to favor me”が、ヒラリー卿の声色を自分が真似
られるということを見せるかのように、その部分だけはベイカー氏の声に変わっていました。DVDのメイキン
グ映像を見ると、ピーター・ハント監督が「オーストラリア訛りを何とかするように強く指導して、レイゼンビー
も懸命に努力したようだが、結局吹き替えになった」と証言しています。英国の紋章院の職員なら、完璧な
「クイーンズ・イングリッシュ」を喋ることを要求されるのは当然であるので、おそらくは脚本製作時や撮影時
には意図しなかった「ボンドがヒラリー・ブレイ卿に化けている間は、ヒラリー卿の声色を真似ている」という
シーンが完成作品では出来上がったように思えます。ブロフェルドに正体がばれて、“Merry Christmas, 
007”と言われたときには“I'm Sir Hilary Bray”とベイカー氏の声で話し、ごまかしが通じないと分かる
とボンドの声に戻っています。となると、少なくともヒラリー卿に化けている間は、他国語の吹き替えの際も
「ヒラリー・ブレイ卿の声を演じた声優がボンドの声を担当する」というのが、監督が意図した演出になるの
かもしれません。でも、実際に行われることは無いでしょうけどね^^;

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